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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)6600号 判決

原告 株式会社静岡相互銀行

被告 東京信用保証協会

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二八〇五万五三四四円及び内金二七六八万九八九一円に対する昭和四八年一月二六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二請求原因

一  原告は銀行取引を業とするもの、被告は、信用保証協会法に基づき設立された法人であり、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付等を受けるについて、その貸付金等の債務を保証することを業務とするものである。

二  被告は、原告との間に、中小企業者が原告から資金の貸付、手形の割引又は給付を受けることによつて原告に対して負担する債務の保証をする旨の基本契約を締結している。

右基本契約によれば、右債務を債務者又はその連帯保証人が弁済期日後六〇日を経てもなお弁済しなかつたときは、主たる債務に利息年八パーセント及び弁済期日後六〇日以内の同率の延滞利息を支払うことが定められている。

三  原被告は右基本契約に基づき、左記各年月日に、左記各会社(以下「本件三社」という。)に対し原告が行つた手形割引につき手形が不渡となつた場合の債務に関して、保証極度額一社当り各金一〇〇〇万円、契約の有効期間各一年とし、被告は原告に対し当該債務を保証する旨の契約(以下「本件各契約」という。)を締結した。

1  昭和四六年一一月一日

不二産商株式会社(代表取締役田村喜英)(以下「不二産商」という。)

2  昭和四七年一月一八日

築栄商工株式会社(代表取締役嶋田誠吉)(以下「築栄商工」という。)

3  同年二月二三日

豊容産業株式会社(代表取締役中川雅夫)(以下「豊容産業」という。)

四  原告は、本件三社に対して、別表一ないし三の各「割引日」欄記載の日に同表記載の約束手形合計二九枚(以下「本件各手形」という。)、額面金額合計金二七六八万九八九一円の手形割引をした。原告は、同表「支払日」欄記載の各手形支払期日に「支払場所」欄記載の各支払場所に右手形をそれぞれ呈示したが、いずれも不渡となつた。

五  被告が前二項記載の約定により原告に対して負担する債務額は別表四ないし六記載のとおり、不二産商関係では合計金九〇五万四〇一六円、築栄商工関係では合計金九〇三万五四七五円、豊容産業関係では合計金九九六万五八五三円、総合計金二八〇五万五三四四円である。

六  よつて、原告は被告に対し保証債務の履行として、右合計金二八〇五万五三四四円及び内金二七六八万九八九一円に対するもつとも遅い手形支払日である昭和四七年一一月一六日から六〇日を経過した日の翌日である昭和四八年一月二六日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因事実に対する答弁

一  請求原因一ないし三の各事実は認める。

二  同四及び五の各事実は不知。

第四抗弁

一  主たる債務の不存在又は無効(築栄商工、豊容産業関係)

築栄商工、豊容産業と原告との間の各手形取引契約は、いずれも訴外山本勝らが何等の権限もないにも拘らず、右各会社代表者名を冒用して原告との間に締結したものであるから、右契約は実質上不存在か然らずとしても無効といわざるをえず、原告と右両社の間には本件各契約の基礎たる主債務は成立していないので、築栄商工、豊容産業については被告の原告に対する信用保証債務も当然不発生ないし無効である。

二  要素の錯誤による本件各契約の無効

被告は、原告の提出した信用調査書、決算書、納税証明書等の机上調査に基づき、(1) 本件三社が実際に事業を営む中小企業者であり、又、(2) 原告は本件各契約による信用保証の対象となる所謂商業手形の割引をなすものであり、更に、(3) 築栄商工、豊容産業については各代表取締役が連帯保証人となつているものであつて、右各事項が本件各契約の条件に合致すると信じて本件各契約を締結したのであるが、後になつて本件三社は資産等実体皆無の会社であり何等事業を行つておらず事業所得もなく、本来本件各契約の保証対象となる企業としての前提を欠くものであること、原告が割引いた本件各手形はすべて何等事業を行つていない会社間の授受に係る所謂融通手形であること及び築栄商工、豊容産業については右各代表者は連帯保証人となることを承諾していないことが判明した。従つて、被告の本件各契約締結の意思表示は、その重要な部分に右に述べたような錯誤があり、無効である。

三  詐欺による本件各契約の取消

原告は、本件三社がいずれも単に登記簿上存在するにすぎない資産等皆無の会社であり、何等事業を行つておらず、又専ら融通手形の割引を目的とするものである等の諸事実を知悉しながら、被告に対し虚偽の内容の各信用調査書、決算書等をもつて本件三社が信用保証に値いし、更に、築栄商工、豊容産業については、その代表取締役が何等了承していないにも拘らずそれぞれ連帯保証する旨虚偽の事実を申し向けて、被告を欺き、その旨被告を誤信せしめたうえ、本件各契約を成立せしめた。よつて、被告は原告に対し、昭和五〇年三月六日の本件口頭弁論期日において本件各契約における保証の意思表示を取消す旨の意思表示をした。

四  免責条項該当

1  原被告間の請求原因二項記載の基本契約を規定する約定書(以下「本件約定書」という。)第一一条は左記の如く規定している。

第一一条 甲(被告)は、次の各号に該当するときは、乙(原告)に対し保証債務の履行につき、その全部または一部の責を免れるものとする。

一号 乙が第三条の本文に違反したとき

二号 乙が保証契約に違反したとき

三号 乙が故意もしくは重大な過失により被保証債権の全部または一部の履行をうけることができなかつたとき

2  本件各契約について、原告は、本件三社がいずれも何等事業を行つておらず、被保証人たる資格を有しないことを知悉しながら、これが信用保証の条件に適するものと偽わり、被告に対し本件各契約の申込をなし、被告をして本件各契約を締結せしめたものであつて、右は本件約定書一一条二号の保証契約違反に該当し、被告は保証債務履行の責を免れるものである。

3  本件各契約は手形割引の保証であるが、保証の対象となる手形は商業手形に限られ、融通手形、前受手形等は含まれないのであるが、本件三社は前記の如く何等事業を行つていないから、営業上の取引による手形の取得はありえず、現に原告が割引いた本件各手形はすべて融通手形であり、しかもそれらはいずれも何等事業を行つていない会社の振出に係るものであつた。原告は以上の事実を知悉していたのであるから、右は本件約定書一一条二号、三号に該当し、被告は保証債務の履行の責を免れるものである。

4  被告の信用保証に当つては連帯保証人を付することが条件となつているところ、築栄商工、豊容産業については、いずれもその代表取締役は何等連帯保証人となることを了承していなかつたのであり、原告はこのことを知悉していた。右は保証条件違反であり本件約定書一一条二号に該当し、被告は保証債務の履行の責を免れるものである。

五  信用保証書の返還による代位弁済請求権の消滅

豊容産業について、原告は本件各契約担当の原告職員岡田寿(以下「岡田」という。)の刑事被告事件につき昭和四八年六月一一日言渡された有罪判決が確定したこともあつて、被告の代位弁済拒絶、信用保証書の返還の求めに応じて信用保証書を昭和四九年三月二七日頃被告に返還した。

被告の信用保証書の発行は信用保証契約における保証承諾の意思表示であり、この発行によつて保証契約は成立するものであつて、又、信用保証書は代位弁済請求権の消滅の場合には被告には返還される。

よつて、右の如く、原告が被告の求めに応じて信用保証書を返還したことは、豊容産業に関する信用保証契約の合意解約あるいはその代位弁済請求権の放棄行為と認められるから、原告は被告に対し豊容産業に関する代位弁済を請求し得ない。

第五抗弁事実に対する認否

一  抗弁一の事実は否認する。築栄商工、豊容産業と原告間の各手形取引契約は、いずれもその代表取締役との間で真正に締結された。

二  同二の事実のうち、本件各契約による信用保証の条件が原告主張の(1) ないし(3) のとおりであること及び原告が割引いた本件各手形はすべて何等事業を行つていない会社間の授受に係る融通手形であつたことが後になつて判明したことは認めるが、その余の事実は否認する。本件三社は原告の調査の結果現実に営業を行つていたからこそ、原告は本件三社とそれぞれ取引を開始したのであり、本件各手形は商業手形であると信じて割引いたものである。又、築栄商工、豊容産業の各代表取締役の連帯保証に関する署名はいずれも自署であり実印を押捺し、印鑑証明書も添付してある。

三  同三の事実のうち、被告が原告に対し昭和五〇年三月六日本件口頭弁論期日において本件各契約における保証の意思表示を取消す旨の意思表示をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  同四の事実中

1  1は認める。

2  2は否認する。

3  3のうち本件各契約が手形割引の保証であること、保証の対象となる手形は商業手形に限られ、融通手形、前受手形等は含まれないこと、原告が割引いた本件各手形がすべて融通手形であつたことは認めるが、それを原告が知悉していたとの点は否認する。

4  4のうち、被告の信用保証に当つて連帯保証人を付することが条件となつていたことは認めるが、原告が当該代表取締役らが連帯保証人となることを了承していなかつたことを知悉していたとの点は否認する。

五  五の事実のうち、豊容産業の信用保証書を昭和四九年三月二七日頃原告が被告に返還したことは認めるが、その余は争う。

第六再抗弁

一  要素の錯誤に関する重大な過失

仮に、抗弁二が認められたとしても、被告としては原告の提出した本件三社に関する信用調査書及び添付書類の内容を机上調査するのみでは足りず、自ら実地調査をする義務があり、実地調査をすれば被告主張の抗弁二記載の各事実は直ちに判明しえた筈であるから、これを怠り本件各契約を締結したことについては表意者たる被告に重大な過失がある。

二  和解契約の成立

1  仮に、抗弁のいずれかが認められたとしても、昭和四九年六月一九日、二〇日の二回に亘り、被告管理部長の青木理事が原告代表取締役川井盛雄に対し、電話で本件各契約に係る保証債務を支払う旨約束した。

2  昭和四八年六月二八日、原告管理担当者遠藤孝が被告本社で右青木理事と面談した結果、その席上で青木理事は豊容産業の分を除いた不二産商、築栄商工の依頼による別表一、二記載の各割引手形の分については被告において原告に対し代位弁済する旨約束した。

第七再抗弁事実に対する認否

一  再抗弁一の事実は否認する。本件各契約は金融機関である原告から被告に保証を依頼して来た金融機関経由保証の形態に属するものであるところ、金融機関経由保証の申込にあつては、中小企業者と金融機関との関係の密度が深く、又、信用を重んじ社会性を有し且専問的調査能力を備えた金融機関の作成した信用調査書が提出されることから、これを中心とした机上調査が行われるのが慣行となつておるので、被告には何等原告主張の如き重過失は存在しない。

二  再抗弁二1の事実のうち、昭和四九年六月一九日、二〇日の二回に亘り原告代表取締役川井盛雄が青木理事と電話対談したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同2の事実のうち、昭和四八年六月二八日原告管理担当者遠藤孝が被告本社を訪問し青木理事と面談したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第八証拠関係〈省略〉

理由

第一当事者間に争いのない事実

請求の原因一、同二(基本契約の締結とその内容)、同三(本件各契約の締結)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

第二同四(本件各手形の割引及び不渡の事実)及び同五(本件三社が原告に対し負担する債務額)の各事実は、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認められる甲第一ないし第二九号証の各一、二、証人遠藤孝(第一回)、同岡田寿の各証言及び弁論の全趣旨により認められる。

第三要素の錯誤の抗弁について

一  いずれも成立に争いのない乙第八ないし第一一号証、第一五号証の一ないし四、第一六ないし第二二号証、第三一号証の一ないし三、第三二号証の一ないし四、第三三号証の一ないし五、第四〇ないし第四二号証の各一、二、証人岡田寿、同山野口太郎の各証言及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1(一)  原告の蒲田支店外交部門担当支店長代理岡田は、新規預金の募集、獲得、貸付申込の斡旋、信用調査等の業務に従事していたが、昭和四六年一〇月一三日、鋼材業と称する不二産商から電話で銀行取引の申込を受け、直ちに不二産商の事務所に赴き専務尾崎純平と名乗る男(実名・山本勝)(以下「尾崎」という。)と会つたところ、尾崎は種々不二産商の事業内容を説明し、鋼材を手形割引により安く現金買いしたい、被告の保証を金一〇〇〇万円とるから、その範囲内でやつてもらいたい旨申し出た。その際尾崎は、取引相手が不二産商の調査をした時の書類の写だといつて、東京商工興信所作成名義の不二産商に関する調査書のコピーを岡田に見せた。岡田は、尾崎の説明と右調査書の記載内容により、業績等からして被告の信用保証が得られれば金融ベースに乗ると判断し、その旨支店長に報告した。その結果、同月一五日原告蒲田支店は不二産商と取引を開始し、同月二五日岡田は被告に信用保証を依頼すべく、前記調査書に基づき信用保証申込書(乙第四〇号証の一)、信用調査書(乙第三一号証の一)等関係書類を作成し尾崎にそれを手渡した。尾崎は右関係書類に信用保証委託書(乙第四〇号証の二)、最近の損益計算書、貸借対照表(自昭和四六年四月至同年九月)(乙第三一号証の二)、納税証明書(乙第三一号証の三)を添付して被告に郵送した。

(二)  昭和四六年一二月二五日、岡田は不二産商を訪ねた時、尾崎から不二産商の事務所に目下事務所を置いている築栄商工の社長嶋田誠吉と称する男(実名・菅谷哲也)を紹介され、不二産商と同様の方法で銀行取引をして欲しい旨依頼を受け、同月二八日原告蒲田支店は築栄商工と取引を開始した。昭和四七年一月一〇日、岡田は尾崎から前同興信所作成名義の築栄商工に関する調査書を見せられ、被告に築栄商工に係る前同様の信用保証を依頼すべく、右調査書に基づき信用保証申込書(乙第四一号証の一)、信用調査書(乙第三二号証の一)等関係書類を作成し、尾崎にそれを手渡した。尾崎は、右書類に、本人代表取締役嶋田誠吉及び連帯保証人嶋田誠吉なる旨記載した信用保証委託書(乙第四一号証の二)、最近の損益計算書、貸借対照表(自昭和四六年一〇月至同年一二月)(乙第三二号証の二)、納税証明書(同号証の三)を添付して被告に郵送した。

(三)  昭和四七年二月一日、岡田は不二産商、築栄商工から持ちこまれた手形の中に豊容産業という銘柄を見つけたことから尾崎に紹介を依頼し、尾崎から豊容産業の内容を聞き、同月一〇日原告蒲田支店は豊容産業と銀行取引を開始した。その頃岡田は、被告に豊容産業に係る前同様の信用保証を依頼すべく、尾崎から交付された前同興信所作成名義の豊容産業に関する調査書に基づき信用保証申込書(乙第四二号証の一)、信用調査書(乙第三三号証の一)等関係書類を作成し前同様尾崎にそれを手渡した。尾崎は、右書類に、本人代表取締役中川雅夫及び連帯保証人中川雅夫なる旨記載した信用保証委託書(乙第四二号証の一)、最近の損益計算書、貸借対照表(自昭和四六年一〇月至昭和四七年一月)(乙第三三号証の二)、納税証明書(同号証の四)を添付して被告に郵送した。

2  被告は前記1(一)ないし(三)記載の原告提出にかかる信用調査書等各書類の内容を机上調査した結果、不二産商については営業年数六年五か月で業績も良い、売上げも増加している、金一〇〇万円近い納税もある、築栄商工については営業年数一五年一一か月、売上げも月金二五〇〇万円から二六〇〇万円位で増加している、金一〇〇万円以上納税している、豊容産業については営業年数九年八か月、売上げも増加している、経営者個人の借入金で経費を賄い内容的に充実していると考え、又、本件三社に関する原告の所見がいずれも良かつたことから、本件三社は営業実績がある中小企業者であり、かかる本件三社が営業上取得したいわゆる商業手形であれば割引に適すると判定し且本件各契約にはその締結の必要条件となつている連帯保証人もついていたことから、前記当事者間に争いがないとおり本件各契約を締結した。

3  しかし、昭和四七年六月に至り、本件三社は、尾崎らが被告の信用保証付手形割引の名目で原告から金員を騙取しようとして作り出した、単に登記簿上存在するだけの資産等実体皆無の会社であつたこと、尾崎らは前記1(一)ないし(三)記載の各納税証明書や興信所の調査書を偽造し、これらと辻褄の合うように最近の損益計算書、貸借対照表を作出して原告に提示したこと、原告が割引いた本件各手形がすべて融通手形であつたこと(この事実は当事者間に争いがない。)並びに築栄商工、豊容産業の二社については前記1(二)、(三)記載の各信用保証委託書の連帯保証人欄の記載も本人らの承諾もないのに尾崎らが勝手に記入したことが判明した。

4  被告が行う信用保証の対象となる中小企業者とは、その事業を一定期間継続して営業している実績のあるものに限られており、従来の原被告間の取引もいずれも右のように実績のある中小企業者を対象としたものであつた。また、信用保証の対象となる手形はすべて営業上の取引によつて正当に取得した約束手形又は為替手形に限られ、金融を受ける手段として第三者から交付された融通手形は含まれない取扱いであること(この事実は当事者間に争いがない。)も本件各契約締結にあたり原告の充分承知しているところであつた。

二  右認定の各事実を合わせ考えると、被告の本件各契約による信用保証の意思表示は、その重要な部分に抗弁二記載の如き要素の錯誤があるというべきである。

第四再抗弁について

一  (再抗弁一)

原告は、机上調査のみで実地調査をせず本件各契約を締結したことは被告に要素の錯誤に関する重大な過失があると主張するので検討する。

1  成立に争いのない乙第一二ないし第一四号証、前同岡田、山野口の各証言及び弁論の全趣旨によると、本件各契約は金融機関経由保証という形態に属するものであるが、金融機関経由保証とは、金融機関に融資を申込んだ中小企業者の担保力、信用が所要借入額に比して不足するが信用保証協会の信用保証が得られれば金融ベースに乗せうると金融機関が判断した場合に、金融機関から信用保証協会に対し保証を依頼してくる方式で、この場合は、金融機関から融資申込人についての細部に亘る信用調査書(本社所在地、営業所(工場)所在地、資本金、従業員、営業年数、営業状況、金融機関との預金、貸出等取引状況、納税状況、借入金、代表者の略歴人物評、営業の経過状況等が記載してある。)が作成提出され、それに金融機関の所見も書き加わえられるほか、最近の損益計算書、貸借対照表、納税証明書等も添付されてくること、そして、右信用調査書は、業者と取引を開始するに当つて金融機関が業績等実態を仔細に調査して作成することとされているものであることから、信用保証協会としては、右信用調査書を信頼しそれを重要な資料としたうえ損益計算書、貸借対照表、納税証明等を検討し、必要があれば電話で金融機関や中小企業者に照会して審査するところの、いわゆる机上調査によることが自ら実地調査を実施することに比べてより適切且効果的であり、延いては金融機関と信用保証協会との相互信頼にもつながるし、また資金繰の急を要する中小企業者の助成にも資するものであること、本件各契約に際しても被告は机上調査を行つていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、信用調査書の作成にあたる金融機関こそ誠実に業者の実態をありのままに調査報告することが期待されるところであつて、被告が金融機関経由保証申込の審査に関し机上調査を原則とするのは実情に照らし相当であり、本件各契約に際しても被告はその調査を怠つているとはいえないのであるから、被告には原告主張の重大な過失はなく、再抗弁一は理由がない。

二  (再抗弁二)

1  昭和四九年六月一九日、二〇日の二回にわたり原告代表取締役川井盛雄が被告管理部長の青木理事と電話対談したことは当事者間に争いがないが、その余の原告主張事実は本件全証拠によるもこれを認めることができないから、再抗弁二1は理由がない。

2  昭和四八年六月二八日原告管理担当者遠藤孝が被告本社を訪問し青木理事と面接したことは、当事者間に争いがない。

原告は右席上において青木理事は不二産商、築栄商工の依頼による各割引手形分については代位弁済する旨約束したと主張し、証人遠藤孝の証言(第二回)により真正に成立したと認められる甲第三七号証及び同証言(第一、二回)中には原告主張に添う部分があるが、成立に争いのない乙第三六ないし第三九号証、証人小室久雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、青木理事はその席上、被告としては既に昭和四七年九月から一〇月にかけての二回にわたる原告の本件三社についての代位弁済請求に対し拒絶の回答をしていることでもあり、岡田に関する刑事事件の結果がはつきりしていない当時の状況では代位弁済をするか否かについて明確な意見は出せない旨回答しているに止まつていることが認められるから、右甲第三七号証の記載及び証人遠藤の証言は信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。従つて、再抗弁二2も理由がない。

第五以上の次第で、被告の抗弁は理由があり、原告の請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西山俊彦 古屋紘昭 上田昭典)

別表一~六〈省略〉

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